しまりす写真館の現像室から

カラーネガフィルムでユルめに写真を撮っています

M6と「東京物語」

カメラを選ぶときに必要なものがある。それは「物語」である。我々はこれに弱い。M3はアンリ・カルチェブレッソンが使った、とか、M2はベトナム戦争の従軍記者たちが愛用したカメラである、とか、M4はギャリー・ウィノグラントが愛用したカメラであるとか、あるいは福山雅治が愛用しているとか、M5は北井一夫氏の愛用のカメラであるとか。。。

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Leica M6 + Summicron 35mm @ Barcelona

そこにいくとM6はそういう「セックスアピール」のある「物語性」を提供してくれるような逸話というか、挿話となるものが少ないように感じる、のが、もしかするといまひとつ巷でM6人気が盛り上がらない理由であるような気がしてしまうのである。

なーんてことをぼんやりと考えていたら、実は手元にとってもヘビー級な「M6物語」がある事に気がついた。

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Leica M6 + Summicron 35mm @ Kyoto

1992年といえば、その前年にイラククウェートの間で湾岸戦争が勃発し、一気に世界経済が冷え込んで、80年代中頃から続いていた日本の「バブル景気」が一気に萎み・・・といった時期であったが、雑誌「SWITCH」で「笠智衆特集」が組まれることになり、撮影のために大船(北鎌倉?)に住む俳優の家に向かったのが「アラーキー」こと荒木経惟巨匠だったのである。笠智衆は「男はつらいよ」シリーズで「柴又帝釈天」の住職としても登場して寅さんの頭を木魚がわりに叩いたりしてるけど、何と言っても「東京物語」をはじめとする小津安二郎監督の映画作品に欠かせない俳優。ローアングルで、標準レンズで小津監督が創り出す淡々とした映像世界で、正面からカメラを向いて「それは違う。そんなもんじゃないさ。お父さんはもう56だ。お父さんの人生はもう終わりに近いんだよ。だけどお前たちはこれからだ・・・幸せは待ってるもんじゃなくて、やっぱり、自分たちで創り出すもんなんだよ。結婚する事に幸せがあるんじゃない。新しい夫婦が、新しい夫婦の人生を作り上げていく事に、幸せがあるんだよ」・・・くうう〜泣かせる(涙)。「東京物語」もいいけど、個人的にはやはり「晩春」がいい!

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Leica M6 + Summicron 50mm (3rd Gen.)

それはともかく、アラーキーは「笠さんを撮るなら、ライカじゃなきゃ」と、大船に行く前に銀座のレモン社にいき、そこで自身「初めてのライカ」としてM6とズミクロン35ミリ、そしてエルマー50ミリを購入し、電車の中で説明書を読みながら笠さんのいる大船に向かったのでした、ということだったそうである(出典:「SWITCH」2017年1月号)。 

「荒木は五百六十グラムのライカボディの感触を確かめながら、吹き出すような汗を何度も拭った。『いいな、いいな』と荒木が高揚していた。

『ライカを使っての撮影は今までなかったのですか?』

荒木にとって初ライカ、今まで一回も触っていなかったことがむしろ不思議だった。

『・・・・・なかったな。ライカは魂を奪うカメラだ。だからずっと避けてきた』」(「SWITCH」No.35 Jan.2017 85頁より引用)

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アラーキーのライカM6と、私のライカM6

さあ、どうです。これだけ濃ゆい「物語」があるでしょうか。よくみんなが「品がない」などと文句を言う正面の「赤バッジ」も気にならなくなってきて、むしろかっこよく見えてきたでしょう、なんてったってあのアラーキーも使ったのですよ、しかも笠智衆さんとの一度限りのセッションでなんの戸惑いもなくお店で買ってそのままのM6で撮影に臨んでるんです。今のライカだと、新品を一発勝負の撮影に使うのはちょっと怖いような気もしますが、この当時の「ライカ」に「初期不良」はあり得ないという確固たる信仰があったのでしょう、なんて言ったって「魂を吸い取るカメラ」なんですから・・

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Leica M6 + Summicron 35mm

ところで、私がM6を買った時に一緒に買ったレンズはズミクロン35ミリの第二世代、6枚玉のいわゆる「ツノ付き」ってやつです。最初は50ミリの古いエルマーあたりを5万円くらいで買おうと思って、レモン社でM6のボディを買った後、銀座に回ったのですが、どこのお店に行っても適当なものがなく、お店の人に「もう銀座にライカはないよ、みんな中国からのお客さんが買ってっちゃったからね!」と言われ、「ああ、もう日本からライカはなくなってしまおうとしているんだ!」という妄想に駆られた私は、日本橋三越のレモン社に駆け戻り、「牧場」のお兄さんからこのズミクロンを購入するに至ったわけです。フィルター枠がなくて、フィルターをつけようと思うとフードと、たっかーいシリーズ7というフィルターを中古で買うしかないっていうのが困ったところですが、バイク王からもらったお金を使い果たして借金生活に入ってしまった私は歪んで分割式なのに分割できないという難有り品の12504型のフードを数千円で購入して、フィルターなしで使ってます。まあ、軽くて小さいし、6枚玉とはいえそこはズミクロン、とてもシャープに写るので、手持ちのライカレンズの中では一番のお気に入りです。

ライカ「現成公案」の巻

3. M6を買え。

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Leica M6 + Summicron 35mm (6 elements) + Fujicolor X-Tra 400 @ 佐渡

「残念ながらライカM6のような最新型のライカ機材には、60年代のライカが持っていたすばらしい精密感、手にして恍惚としてしまうようなあの感じがしない」

田中長徳「間違いだらけのカメラ選び【別巻I】くさっても、ライカ」1994年発行 140頁)

 ライカM6に関しましては、貴殿におかれましてもご高尚のとおり、上に引用させていただいたようなご批判があるのですが、「最新型の機材」といっても、もはや四半世紀もむかしの言説。しかし、このむかし話がいまだに亡霊のように付き纏っているのがこの「ライカ」界隈の不思議なところであり、まさに「忘れられる権利」の必要性が叫ばれる由縁でもあります。

さて、冷静になって考えてみれば中古品のライカなど「普通はあり得ない」お話で、新品MP、M-AあるいはデジタルMをとの、前回申述べました私の見解につきまして、「全くちがう地平からのお話」と耳を傾けていただけなかった貴兄もしくは貴女に、最初のライカとして(願わしくは、「最後の」ライカとして)お勧めしたいのはやはりライカM6でございます。田中長徳氏のようなご批判はあるものの、しかしこれって要は「60年代のライカ」なるものを知らなければ、全く気にはならないことではないかと思われ、まさに「知らぬが仏」とはこのような場面で使う諺なのでしょうか。

中古のMP、M-A或いはM7といった選択肢もあるところですが、最初の2者はほとんど中古品を見かけることがありませんし、見かけたとしても新品とさほど変わらない値段設定となっているわけです。M7は電子シャッターゆえ、この先20年、30年と使うことを考えると不安だ。(高度に消費社会化した今日において20年、30年って現実離れした話であるが、「ライカ」ウイルスに侵されると、金銭感覚が麻痺するとともに、思考における時間軸がやたらと永くなってしまうのです。「形見としてひ孫に遺してやりたい」とかね。「その前にユー、独身だろ?嫁さんもらえ」っていうツッコミはなしでお願いします。)ということで、バイク王からもらった15万円なにがしを握りしめた私が購入を考えていたのはM6TTLです。

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しかし、結局、購入に及んだのはこちらのお品物。ライカM6 Wetzlerモデル。M6「クラシック」などと呼ばれている、いわゆる初期型のM6である。

このM6を購入したのは当時日本橋高島屋の6階にあったレモン社。こちらのお店と御徒町の新橋イチカメラに目当てのM6TTLのブラッククロームがあることを「J-Camera」にて確認済みの私は、ある土曜日の朝、新橋駅で降車、銀座線に乗り換え、まずはこちらのお店に向かったのでした。

しかし、ここでお店のお兄さんに「お勧めはこちらですね〜」と言われたのがこの個体だったのだ。

生来外界事象全般に懐疑的な私は、かねてよりネット上の情報にて、M6の初期型は不具合が多いという噂を仕入れておりましたゆえ「このお兄さんのいうことを信じて大丈夫かな〜」と内心思いました。以下、お兄さんこと師匠とライカ初心者の私こと小僧の間にこの時交わされた問答。

檸檬日本橋店舗店長土曜の朝客おらず暇にて扇を使うちなみにライカ買いたしと初心者の小僧来たりて「M6TTL買いたし」と申すに店長曰く「M6購うなら汝選ぶべきはTTLにあらずこのM6なり」と。小僧問ふ「風性常住無処不周なり、写真機のみならず萬物悉く若き物新しき物こそめでたけれというぞことわり。なにをもてか和尚新しきM6TTLにあらず古きM6を推す」師曰く「汝ただ風性常住を知れりとも、いまだところとしていたらずというふことなき道理を知らず。未だ初心のものなれば頑是難き事にしあれども、M6TTLその背丈六厘の差なれど僅に高し」小僧曰く「いかならむかこれ彼我の写真機背丈六厘の差、底(ち)の道理!」ときに、師、扇を使うのみなり。僧礼拝す。ちーん。

うーん、「真理」って、語って聞かせるものではない、心で伝えるものなのですね〜。

それはともかく、つまり、お店のお兄さんは「カメラの高さが2ミリだけ、ほら、TTLの方が高いんですよね〜。」と、私に教えたのであった。

思えば、このとき私は「特濃」のライカウイルスに被爆したのでありました。

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Leica M6 + Minolta M. Rokkor 28mm + Kodak 400 @ 石垣島

カメラボディの高さの違い、2ミリで評価が分かれるライカの世界。なるほど、そう言われてみてシャッターを切ってみますと、M6TTLはその少しだけ大きなトップカバーの中でシャッター音がカメラの中で反響するのでしょうか、単なる妄想だったかもしれませんが、その時TTLのシャッター音は、私の耳にはノートルダム寺院の大鐘楼の中に響き渡る鐘の音もかくやと思われるのであった。M6の方が少しこもったようなと言いますか、「トンっ」となるほどシャッター音が静かである!と、思ってしまったわけであります。

実は今回この一連の記事を書こうと思いたったきっかけは、最近の中古価格の値上がりにわずかばかりの利益確定に走りかけこのM6をついに手放すことを考えて、半年ほど入れっぱなしだったフィルムの最後の一コマでうちの猫を撮って、フィルムを抜き取った後、ストラップも外した状態でしばらく防湿庫にしまっていたのですが、よくよく考えてみるに、私が持っているライカの中では、このM6が最も美しく、かつ感触が良いのだということに、今更ながらに気が付いて、そのことを忘れることがないようにしなければならぬ、まかり間違って手放して後で後悔するようなことがあってはならぬ、なればこの熱き想いを今こそ書き留めておくべきなり、と思ったということに端を発しているわけであります。

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Leica M6 + M. Rokkor 28mm + Kodak 400 @ 那覇

このM6を使うたびに思い出すのは、これを買ったレモン社のお兄さんのことです。素人なりにファインダーを覗いたりシャッターを切ってみたりして、この個体とM6TTLとを比べた挙句、「じゃあこのM6にします」といった時の彼の喜びようといったら、カメラを買う本人よりも嬉しそうで、頼んでもいないのに、自分でカメラを点検し始めて、全速シャッターを切って、ファインダーを覗いて「うーん、これはきれいな『牧場』だ〜」ってしきりに感嘆していて、私は「きれいなファインダーのことを、ライカ界隈ではきれいな『牧場』というのかな」と思っていたのですが、あれは「極上」といっていたのでしょうね。そして、フィルムを交換するときはファインダの対物ガラスに指紋がつかないように、左手の人差し指の腹をトップカバーに添えてボディをひっくり返して底蓋を外し、外した底蓋はボディを支えている左手の小指と薬指の間に挟んでおくのがいいですよ〜、とか、たまーにバックドアについている電気接点を綿棒で拭いてあげてくださいね〜とか、文字通り「新入」の私にいろいろと教えてくれたのであった。

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Leica M6 + Summicron 35mm (6 Elements) + Fujicolor X-Tra 400 @ 佐渡

これまで色々なお店でライカを購入してきたのですが、思うに、買う人よりも嬉しそうな店員さんがいるお店で買うのが、きっと幸せになれるなんじゃないかと思います。

いやいやいや、20万円前後もするたっかーい中古のカメラを買ってくれるという奇特奇矯なお客さんが来てるんですから、そりゃ、みんな売る人は嬉しそうでしょう・・・って?

いやいやいや、意外とっていうか、そうでもないんですよね。

何だか最近、中古のライカを売ってる店員さん、あまり楽しそうじゃないっていうか、売ってる品物に自信がなさそうな人が少なくないような気がしています。。「え、これ、ほんとこの値段で買うの?」みたいな・・・というのは私の精神的不安定さから来ている偏見?これもコロナの影響で人的交流、ソーシャルインターアクションが希薄になって久しいせいで人が人の心を感じる力が弱まっているせい?こっちはとにかくライカウイルスに感染しちゃって、これ買わないと重症化しそうなんだから、もういくらでもいいんだよ、命には代えられないから!とか思っちゃったりしてるんだけど。。

なので、私はお店でライカを売っている人に言いたい。是非、自信を持ってライカを売っていただきたい。これも「人助け」である、と。

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Leica M6 + Minolta M. Rokkor 28mm @ 沖縄

まあいずれにせよ、そういうわけで、私はたいへん祝福されたライカ人生の第一歩を踏み出したのであった。

あれ以来、足掛け7年このM6を使っているけど、最大の弱点は、よく言われれているとおり、左前方の角度から光が差し込んでいる状態の時、距離計が乱反射して二重像を確認できなくなってしまい測距不能になるという、このモデル特有の「持病」。あと、購入後にフィルムを通して発覚したのですが、数カットに一度の割合で、光線漏れでフィルムの上端部がカブってしまうという症状があったこと。光線漏れについてはお店に持っていって2週間ほど入院して、完治しました。以来、トラブルは一切なし。

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Leica M6 + Summicron 50mm

しかしながら、このように幸福な出会いがあったにもかかわらず、M6を購入したほんの数週間後、私はブラッククロームのM6TTLも手にしていたのであった。。ことの顛末については、また次回。

ライカ「ういやまぶみ」

「いかならむ ういやまぶみの あさごろも あさきすそのの しるべばかりも」 本居宣長

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Leica M3 Double Stroke + Elmar 5cmF3.5 + Fujicolor 100

「ライカウイルス」という言葉を生み出したのは、田中長徳氏だったのか、赤瀬川源平氏だったのか、佐々木悟郎氏だったのか、定かではないが、確かにライカには他のカメラにはない、何か私たちの「物欲」を狂わせるものがあることは、もはや疑問の余地を挟む余地がないほどに客観的に明白な事実である。

私などはまだまだ「序の口」、ライカを語るなど一万光年も早いわ!とお叱りいただくであろうとは自覚しつつも、世の中に「ライカ病」というこの病に冒されつつある人がいるとするならば、この病の道の先達として、何かアドバイスというか、蘊蓄というか、ここは一つ、ひとくさり、垂れてみたいというのが人情というもの、いや、あの日の私、そう、my first Leicaを買おう、とヤマハのバイクをバイク王に売って得た十数万円を握りしめて東京に向かったあの日の私に向かって、今こそ伝えたいことがある(ここでドン、と机を叩く)!

本居宣長が述べたとおり、私はまだまだ初めて修行の山登りに向かって山の裾野をテクテクと歩いている新米の山伏のようなもの、ここに書き記すことは私の粗末な麻の着物の裾が雑草の葉と擦れてついた青いシミのようなものにすぎないが、果たして貴殿の参考になるものかどうか、はて、いかがものであろうか・・・

 

その1.新品を買え。

 もし、今の私が、あの日の私と入れ替わることができたとしたならば、私は新品のMPを買うであろう。当時、私は50万円を超える新品のフィルムライカを買うなんて「あり得ない」と思っていた。そんな、カメラに50万円も払うなんて、正気の沙汰ではない、と思っていた。しかし、いま、わかる。50万円のカメラなんて、買えるか!と思っている人でも、何回かに分けて15万円から、ともすれば25万円もするカメラを、気がついたら5台、6台と買ってしまうこともあるのだということが。

今、MPって新品だと60万円?消費税が6万円?

しかし、以下のような方程式が成り立つのである。

[新品のMP<中古のM6+M3+M4]

M6を買ってしばらくは「俺もライカ人♪」とご機嫌な日々が続くのだが、そのうち「ライカM6なんて、ライカじゃない。本当の『ライカ』を知るには、やはりM3だ」「M3を知らずしてライカを語るなかれ!」などというまことしやかな記事なりなんなりを雑誌とか、ブログとか、古本とかで、目にすることになるわけでです。そんなことないだろーっと、俺は写真が撮れればいいんだもんねっと、聞こえないふり、見て見ぬふりをしているうちはまだ偽陰性、すでにその実ライカウイルスに冒されていて(これを潜伏期間という)、そして、ある夜ふと目が覚めた時に、すでに考えているわけです。

「やっぱ、M3って、違うのかな。」

さて、ここで、シングルストローク(巻き上げレバー1回の操作でフィルムを巻き上げるタイプ)を買う人と、ダブルストローク(レバーを2回引いて巻き上げるタイプ)を買う人に分かれる。シングルストロークを買う人は、比較的軽症であるが、ダブルストロークを買う人は重症化する恐れが高い。なぜならば、ダブルストローク(1954年〜1958年くらいに製造)の方がシングルストローク(1958年以降製造)よりも古いことに加え、ダブルストロークは機構的にデリケートなので、当然のことながら「当たり外れ」があり、予算をケチった結果不満足な個体を掴んでしまい「こんなはずじゃないはずだ」と別の個体に買い直したり、オーバーホールに出して結局思ったようになおらなかったりして(ダブルストローク機は修理を受け付けないお店もある)「お布施」残高が積み上がることになる可能性が高い。そういう意味では「シルキーな巻き上げの感触はダブルストロークのスプリング式が最高」などという都市伝説的ポエムに幻惑されることなくシングルストロークを選ぶ人の方が、無駄遣いをすることは少ないように思うが、でも結局「ダブルストロークのシルキーな感触って、どうよ?」と考え出して、ある日衝動的にダブルストローク機も買ったりするので、結局は同じことかもしれない。

ちなみに私は、M6もシングルストロークのM3もダブルストロークのM3も買ってしまったクチですが、この中で一番軽くスムーズに巻き上がるのは、間違いなくM6です。しかし、どのM6もそうなのかわわかりません。私のM6は、巷ではあまり評判がよろしくない初期型(いわゆる「WETZLER刻印」というやつ)なのですが、比較的上手に調整されているのだろうと思います。

そう、結局のところ中古のライカは「個体差」があるわけです。今時30万円後半、下手すりゃ40万円台のプライスタグがついた美品クラスを購入されるならば別ですが、現実的な価格の中古品の場合、いくら見た目が良くっても、そいつがどんな素性の女、もとい、カメラなのかは、買って、フィルムを通して、使ってみるまでは、わからない。

そんなふうに思います。

そういうわけで、新品のMPを買うなんて、お金の無駄遣い!と考えている貴兄は、ぜひ冷静になっていただき、考え直していただきたい。長い目で見れば、新品のMP一台で済むならば結局は安い買い物という見方もできるわけです。

ブラックペイントのMP、いいよ〜。

ファインダーは新品だから当然だけどスカッと晴れわたり、二重像もくっきりはっきり、「くもり」なし!「バルサム切れ」なし!「無限遠がちょっとズレてる」とか「フレームの枠になんかポツポツある」ということもなし!「あパララックス補正が途中で引っ掛かる」ということもなし、巻き上げるとレバーが滑って一コマ分巻き上げないとか、巻き上げレバーが止まらずにグルーンって行き過ぎちゃうとか上下にガタガタするとか、コマとコマが重なるとか、露出計が2段ぐらいずれてるとか、シャッター幕にカビ跡があったり、微妙に光線漏れしたりとか、バックドアがなんかパコパコするとか、フィルムレールに錆が、とかそういうことは、新品だから当然だけど、一切ないんですよ(ないはず)?もちろん傷も凹みもスレも、ありません!新品は間違いなくどれもが「ミントコンディション」の「美品」です。当たり前だけど、うそ偽りのない「新同品」です。しかもブラックペイントで、使えば使うほど正真正銘のエイジングができていくという(まあ、自分の肉体も一緒にエイジングするわけですが)、もう最高じゃないっスか。

ああ、あの日の私に戻ることができたなら、私は迷うことなくブラックペイントのMPを買っていたことでしょう。

MPって、今、予約生産みたいですね。でもライカの予約はワクチン接種の予約みたいに複雑な手続きは必要ないから、チョー楽勝じゃないっスか。三つぐらいの素性の知れないウェブサイトにアクセスして個人情報を打ち込まないとならないとか、システムがダウンするとか、電話回線がパンクするなんていうようなこともないですし。しかも新品なら、銀座のライカストアでVIP待遇してくれますよ?中古カメラ屋さんの海戦山戦のおじさんや無愛想なお兄さんとのお互いに相手を値踏みするようなかけひきで気疲れしたり、帰りの電車で「俺ってぼったくられた?」とガラスのハートが微妙に傷ついたりすることもなくて、コーヒー飲ましてくれて、帰りに名刺くれて、しばらく立ったら電話がかかってきて「〇〇さま、先日のMPの調子はいかがですか?」ってご機嫌伺いしてくれますよ?

え、MPは巻き戻しが斜めについたクランクでなくノブをぐるぐる回すタイプだから、扱いにくい?

多分それって、あのノブをぐるぐる回すにしてもフィルム一本巻き取るのにかかる時間はクランクでクリクリ巻き戻すのと比べて、10秒とは言わないまでもせいぜい30秒位の違いしかないと思いますし、MP買わなければ、最初はM6とかM4にしたとしても、結局しばらくたったらM3とかM2を手にしてることになるわけで、その時にはノブでグリグリフィルム巻き戻しながら「んー、この巻き戻しの時間にまた新たなイマジネーションが生まれることもあるのよね」とか嘯くようになってるわけですから、心配は無用、結局は同じことなのである。

え、M-Aにしたい?それも「あり」。カメラに露出計ついてなくても、セコニックのツインメイトを買えば、困ることはない。昔の人は70年代になってM5が出てくるまで露出計のないカメラでたくさんいい写真を残してるし、機械で露出測るよりもヤマカンで絞りとシャッター速度決める方が、個性のある写真が撮れるような気もする。でも、個人的にはM-Aの黒ってちょっとシンプルすぎて寂しい感じがするので、M-Aにするならシルバーの方がいいな。

ところでMPってみんな大好きマップカメラの買取サイトで検索してみたら、30万円ちょいで買取してくれるのね。と、いうことは貴方は税込66万円払うのではなくて、66-32=34万円しか払っていない、かつ、そのうち消費税6万円分についてはですね、この国の明るい未来のために、しっかりと、活用してまいりたい、このように考えるわけでありまして、つまり何らかの形で国民に還元されるというわけなのでありますから、エーその、つまりですね、新品のMPの国民における「自己負担額」はまさに、実は、28万円なのであリマス。

これって、どこかの国の社会保険制度よりもよっぽどリーズナブルであり、かつ透明性が高い取引ではないか、と思うわけです。自分が負担する金額と、将来戻ってくる金額が、明確である。

(ここから低く、小さな声で)しかもですよ、ほんっとここだけの話ですが、MPって今予約製造っていうことは、そのうち近い将来、米国金利が上がって一本調子で上がってきたダウ平均株価が下がり始める頃にはディスコンの可能性もあると思われるわけです。もしMPがディスコンになったら、その時はあなたが手にしているそのMPの値段、跳ね上がるかも知れませんよ・・・下手したら、購入費用の66万円そっくりそのまま、いや、プラスの利回りで戻ってくるかも。

決まりです!米国株もビットコインも既に高騰、過熱気味の今、「買い」はライカです!MPです!この際なんなら黒と銀まとめてセットで買っときましょう!投資って2倍投資すれば、リターンも単純に2倍です。どこかの国の社会保険精度なんかよりもよっぽど明朗会計なんです。

・・・ヤッベえ、こんなこと書いてるうちに自分が買いたくなってきたMP・・・。

その2.デジタルMを買え。

ほんと実もフタもなくてすみません。でもフィルムのライカを買おうとしている人は、いまいちど「なんでフィルム?」と問い直しても良いのかも知れない。もちろん、トライエックスやアクロスで撮影して現像もプリントも暗室にこもって自分でやって、作品はどこかのギャラリー借りて展示して・・ということでしたらすみません、ここ読み飛ばしてください。でも、貴殿のワークフローがもしもお店で現像、お店でスキャン、インスタやFlickrで公開して・・・ってことだったら、それってフィルム、しかもライカを使う意味ってあるのでしょうか?

人の趣味に水差すようなこと書いて、ご気分を害された方がおられましたら、ごめんなさい。でもこれ、私、実は近所の写真屋のおじさんに言われたことで、実際答えに窮してしまい、「そのようなご批判は当たらない」と返すしかなかったわけであります。

お店でスキャンって結局露出とか「見栄え」が良いように機械が自動で補正しちゃうんですよね。一度お店の人に「補正なしでスキャンってできないんすか」と聞いたことがあるけど「やり方わかんない」って言われちゃいました。それが嫌でスキャナーを買って自分でスキャンし始めたんですけど、今度はホコリとの無限バトル。ブロワーでふいて、スキャナーのガラスの上を綺麗なクロスで拭いて、ライトルームやフォトショの消しゴムツールで写り込んだホコリの影をシコシコ消して・・・で結局はJpegファイルに置き換えてるんだったら、最初っからデジタルで撮ったらチョー早くね?って、ある日気が付いてしまったわけです。フィルム代も現像代もかからないし、スキャン代あるいはスキャンしてゴミ取って画像整えてっていう手間も全てスキップできるんですよね・・しかも得られる画像は、もうこれ以上は望めないってくらいの高解像度のキレッキレの画像ファイルな訳です。

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Leica M Type 240 + Summilux 50mmASPH.

確かにフィルムで撮ってスキャンして得られる画像って、それでも独特の雰囲気があるわけですが、実はデジタルのM型ライカも、フィルムで撮るのとなんだか似たような味わいがあるような気がしています。これっていったいなんなんでしょうね。フジのXシリーズもいい味出してると思うんですが、ちょっと薄味な気がします。アジの焼き魚定食とトンカツ定食ぐらいの違いがあるような感じというのでしょうか。フルフレームのセンサーがついてるからかな。でもNikon D750を使ってみたこともあるけど、それとも違うような気がするんですよね。。

とにかく、デジタルのM型につきましても、しっかりと、検討してみる価値は、これはあると私は思うわけでアリマス。

え、デジタルカメラは寿命が短い?

確かに。でもひとまずのところ15年選手のうちのオリンパスE-1だっていまだに特に問題なく動いていますし、昨年末入手したライカMも5年落ち?ですけど、少なくともあと5年は持つのではないでしょうか。デジタルライカは壊れると修理代が高くつく、という話は聞いたことがあるので、そこのところはまだ未知数ですが。。でも一時期フィルムに狂ってた時に1年間で使ったフィルム代・現像代を計算したら、15万円くらい使っていたので、仮にこれをさらに暗室で自分で焼いて・・・とかする費用と時間を考えると、フィルム道に邁進するのと、サクッとデジタルに乗り換えちゃうのと、どちらもあまり有意な違いはないのではないかという気がしています。

「ゴタクはもうたくさんだ、とにかく俺は、フィルムで、ライカで、撮りたいんだ!」

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Leica M3 Double Stroke + Elmar 5cm F3.5 + Fujicolor 100

承知いたしました。

そうであるとすれば、やはり定番はこちらではないでしょうか。

(以下、続く)

 

 

 

 

 

Music Spot「来歌」にて

 

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Leica IIIf + Elmar 50mmF3.5 Red Dial + Acros 100

もう30年も前の昔、スペインのある街の建設現場に出張で行ったのですが、現地法人が破産してしまって、現地の建築作業員たちに給料を払えなくなっちゃってたんですね。それで工事現場の事務所の前にいろんな国からやってきた労働者たちが(中でも圧巻だったのが、アイルランドからきた労働者たちで、ポパイに出てくるブルートみたいにぶっとい腕で、一発殴られただけでそのまま昇天できそうな、「屈強」という言葉はまさにこのような体格の人たちのためにあるのだろうなと思いました)現場事務所の前に集まって、「金払え、金払え」とシュプレヒコールを上げだしたのね。

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Leica IIIf + Elmar 5cmF3.5 Red Dial + Acros 100

で、いやこれすごい不穏なことになっちゃったな、と思ってたら、そのうち石を拾ってプレハブの事務所の建物に向けて投げ出したんです。トタンの屋根に石がガンガンと音を立てて当たって、「これは非常に危険な状態ですね」っていうことで、上司(田中さんとしておきましょう)と私とで現場の指揮を取っていたアメリカ人のところにいって、「極めてデンジャラスな状態になったので、女性職員は先に帰宅させるべきだ」と提案したわけです。

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Leica IIIf + Elmar 5cmF3.5 Red Dial + Acros100

そしたら、そのアメリカ人というのが女性の弁護士さんだったんだけど、間髪入れずに「Mr. Tanaka, you are a chauvinist!」って言ったんです。

「ショーヴィニスト」ってWikiで調べたら「排外主義者」っていう意味が紹介されていますけど、「男尊女卑主義者」という意味があるみたいで、要は「女性だからということでなんで別扱いで帰さないといけないんだ。それは性差別である」というのですね。

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Leica IIIf + Elmar 5cmF3.5 Red Dial + Acros 100

「来歌」と書いて「ライカ」と読むのかな。ライカでもって「来歌」を撮る・・・「きままや」っていうお店も楽しそうだし「よこよし」っていうお店も美味しそう。

来年くらいになったら、また昔のように飲んで歌って、、という日常が戻ってくるのでしょうか。

それにしても、あの時「chauvinist」という英単語を即座に理解した田中さんは偉かったな、と思います。私は何を言われたのか全く理解できず、まさに「豆がハト鉄砲を喰らったような」顔できょとーんとしていたのでした。

ということで、先日入手のElmar 5cm、少々曇りありの物件でしたが、試写の結果、全然オーライの写りなのでした。

Straight, no chaser.

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Leica IIIf + Summitar 5cm + Kodak Proimage 100

「われわれがサンタクロースを信じさせて子供を育てるのも、ただ子供を騙すためだけではない。子供たちの熱心さがわれわれをまた熱くし、われわれ自身を騙すのを助け、子供たちが信じているように、返礼を求めない気前よさというものが現実と全く両立しないものではない、ということを信じるように仕向けるのである。」

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Leica IIIf + Elmar 5cm F3.5 + Kodak Proimage 100

「ボロロ族は、彼らの組織を真しやかな擬人法のうちに拡げて見せてはしたが、他の種族以上には、あの真理を打ち消すことに成功しなかったようだ。その真理とはー或る社会が生者と死者のあいだの関係について自らのために作る表象は、結局のところ、生者のあいだで優勢な規定の諸関係を宗教的思考の面で隠蔽し、美化し、正当化する努力に他ならないということである。」

(レヴィ-ストロース「悲しき熱帯」第6部「ボロロ族」より 下線は引用に際して付した。)

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左がSummitar5cmで、右がElmar 5cm (F3.5 Red Dial) - どちらもF 5.6~F4.0程度で撮影したはずです。こうしてみると、ズミターの方がピントを合わせたところはシャープに写っているように見えます。周辺部はちょっとグルグルしているようですね。エルマーの方は全体に安定しているように感じます。

IIIfを入手した時、レンズの前の小さな絞りレバーで絞りを調整しないとならないエルマーを敬遠してズミターを選んだのですが、レンズが重いので、鏡胴を伸ばした状態でテーブルにカメラを置くと、カメラがお辞儀をしてしまう(レンズ側に倒れてしまう)のが気になって・・・どうでもいいことだとは思いますが・・・ついに、エルマーと交換してもらいました。

ズミターは買った時よりもちょっとだけ高く売れたのでそれはそれで嬉しかったのですが、Lマウントのエルマーって、こんなに高かったっけ。。。数年前の倍、とは言わないまでも、1.5倍くらいのような感覚です。もうワンランク上のA品も見せてもらったのですが、税込15まんえん!綺麗だったのでぐらっときましたが、すぐに正気に戻って、こちらのAB品にしました。

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ほうら、ちゃんとカメラが正立しています!

いや、それがどうしたっちゃあ、それまでなんですが、お酒のグラスを片手に、机の上に置いたカメラを眺めるときの気分が違う!のです。

が、今頃になって気がついたのですが、このSBOOIのファインダー、数年前に入手したものなのなのだけど、これ、かなり曲がってしまっていますね。。。(泣)。

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上の写真は、最後にズミターで撮った写真ですが。。渋い色合いとフワアッとしたソフトな描写が、実にいいですねー。。

売ってからわかる、ライカレンズは売ってはいけない、ということが・・・。

「戦前日本のポピュリズム 日米開戦への道」から「坊っちゃん」まで

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「♪戦争がおわって〜僕ら〜は生まれた〜」っていう歌が昔ありましたが(あったのだ)、小学校6年生の時の僕の先生が副業が神主さんで、授業が脱線すると、よく戦争の話を聞かされました。なんでアメリカみたいに大きくて強い国と戦争しちゃったんだろうな〜と子供心に不思議に思い、その不思議を抱えたまま、大人になって幾星霜、50代も半ばを迎えてようやく朧げながらその理由が分かりかけてきたような気がする今日この頃です。

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「ここで五・一五事件裁判のポイントをまとめておこう。第一に、普通選挙決定(一九二五年)、実施(一九二八年)によりポピュリズム化が開始されたのだが、このころになると、政党の勝利で官僚に対する「政治優位」が確立したことが「政党専横」と見られ、批判の対象となっていたことがわかる。そして、それが官僚的なもの(軍人)の復権志向となり、それとマスメディアとの結合傾向が見られはじめたのである。」

筒井清忠. 戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2214-2218). Kindle . 

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「軍艦はただの船ではありません。同じ船でもタンカーや貨物船などとはまるで違います。軍艦は戦争に使うためにつくられた船です。戦争というのはいくらりっぱな口実をつけても、けっきょく人間と人間のむだな殺しあいですが、軍艦はその人殺しの兵器を積んだ船です。そして戦争になればその兵器で相手の人間を殺すのです。それが軍艦の目的です。このことは旧海軍の軍艦だけではありません。いま自衛艦とかいうまぎらわしい名まえで呼ばれている『軍艦』についても、まったくおなじことがいえます。軍艦をみて勇ましい、プラモデルはカッコいいと思うまえに、まずそのことをよく考えてください。」(渡辺清戦艦武蔵のさいご」童心社「あとがき」より)

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1970年代の学校教育では歴史の授業は明治維新で終わりになっていたので、明治の時代から今日までずっと今のような世の中だったのだろうな、という印象を持ち続けていたのですけど、ようやくそうではなさそうだと気がつくのにこれだけ時間がかかってしまうとは自らの不勉強に赤面の日々であります。最近の中学校(というか、中学生向けの受験予備校)では、ちゃんと普通選挙制度の導入と治安維持法の制定がおなじ年に行われたことが「あめとむち」という整理ではありながらも教えられているようです。

ところで今読み進めているこの本を読んでいて、夏目漱石の「坊っちゃん」の中でポピュリズム化に対する痛烈な批判というか、皮肉が描写されていることを初めて知りました。いやなるほどそういうことだったか。本って読んでいくと本当に面白いですねえ。

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「これでも元は旗本だ。旗本の元は清和源氏で、多田の満仲の後裔だ。こんな土百姓とは生まれからして違うんだ。ただ智慧のない所が惜しいだけだ。どうしていいのか分らないのが困るだけだ。困ったって負けるものか。正直だから、どうしていいか分らないんだ。世の中に正直が勝たないで、他に勝つものがあるか、考えて見ろ。今夜中に勝てなければ、あした勝つ。あした勝てなければ、あさって勝つ。あさって勝てなければ、下宿から弁当を取り寄せて勝つまでここにいる。」(夏目漱石坊っちゃん岩波文庫 44頁)

しかし、漱石って、いやよくこう小気味よくペラペラと書いたもんだな、って本当に感心しちゃいます。

記憶の引き出し

2年ほど「ばっくれて」いた健康診断の帰りに富士フィルムショールームに立ち寄ったら、北井一夫先生の「村へ」の写真展(といっても点数少なめでしたが)をやっていた。思わず「写真家の記憶の引き出し」という本を買って帰ってきてしまった。

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Ricoh GR1v + GR Lens 28mmF2.8 + Kodak ProImage100

「観光地や有名な人や風景を撮らない。美しいと感じる花は撮らない。多くの人たちから価値があると認められているものを撮らない。価値がないとされている、時代とともに忘れられ消えていく、普通の人たちの普通の生活とその場の風景だけを写真にするようにいつも心掛けていた」(北井一夫「写真家の記憶の引き出し」92頁)

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Ricoh GR1v + GR Lens 28mmF2.8 + Kodak ProImage100

なかなか北井先生のように達観することはできないので、きれいに咲いている桜とか、野良猫にレンズを向けてしまうわたしであった。。自転車のカゴの中に、もう1匹いるのだ。

木村伊兵衛から言われたこんな言葉も紹介されていた。

「写真を撮るときは、一番弱い人の立場に立て。」

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Ricoh GR1v + GR Lens 28mmF2.8 + Kodak ProImage100

東京周遊も2年前の6月に、西大井から始めて、概ね1週半で現在足立区を西から東に横断中。ルールとしては、バス、電車、タクシーは使わず、徒歩。日が暮れる前に家にたどり着く程度で止める。そして、前の回で辿り着いたところから、歩き始める。そう決めておくと、週末にどこに写真を撮りにいくか、あれこれ考えなくてよいのがよい。「桜がきれいに咲いていそうだから、千鳥ヶ淵のあたりに行こう」と考えてしまうと、もうそこで、どんな写真を撮るか、決まってしまうような気がする。

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Ricoh GR1v + GR Lens 28mmF2.8 + Kodak ProImage100

ふと通りかかった、名前も知らない稲荷神社の桜が、風に散っていく。境内には他に誰もいない。誰もこの瞬間を見ていない。

それにしてもGRって小さいのによく写るのね。