しまりす写真館の現像室から

カラーネガフィルムでユルめに写真を撮っています

ライカ共同幻想論〜日暮里、千駄木、そして千石

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Leica M5 + Elmarit 28mm (2nd.) + Kodak Ektachrome

令和3年7月某日。「日暮里駅」にて下車。カバンからライカM5を取り出した私は駐輪場の脇の休憩スペースにて28ミリのファインダーを取り付ける。このファインダープラスチック製なのだけど、足の部分が右側に少しオフセットされていて、ファインダーの本体部分を掴んでカメラにつけたり外したりしているうちにそのうち足の部分がとれるんではないかと思ってしまうが、そのあたり耐久性はどうなんでしょう。

「青い田の露をさかなやひとり酒」

小林一茶がこの句を詠んだという「本行寺」の前を通過。この辺りが武蔵野台地の東の端だった名残がある。「夕焼けだんだん」には向かわず、右に折れて諏訪台通りに入り、「諏方神社」にてぎょろりと目玉の大きな黒いこま犬を見つけて、激写。神社にお参りした後、富士見坂を降る。2000年ごろまでは、ここから富士山が見えていたが、本郷通り周辺のマンション建設でビルとビルの間にわずかに見えるか見えないかになっちゃった。これを土地の人は「すきま富士」とよんで愛でている、という解説が坂沿いに写真と共に掲示してある。f:id:Untitledtrueman:20210725114221j:plain

坂を降りきったところで商店街を抜けて、さらに住宅地に入っていく。不忍通りを渡って、また坂を上がる。ちょうど午後1時。暑い。何年か前、銀座のバーで「開店記念です」ということでもらったタオルで汗を拭く。千駄木の住宅地を抜けて、ひとまずの目的地である吉祥寺を目指すのだが、適当に路地を曲がっていくと行き止まり。引き返して、ここなら抜けられそうかな、と曲がっていくとまた行き止まり。

昔むかし、このあたり一帯は、上野寛永寺造営時に木材を切り出したという雑木林が広がっていたようであるが、その面影があるような、ないような、住宅地、学校、墓地、公園の中を歩いているうちに、「養源寺」門前に辿り着いた。このお寺、少し前にきたことがある。夏目漱石の「坊っちゃん」に出てくる主人公の家の奉公人「清(きよ)」のモデルになった漱石の友人の祖母の墓があるということで知られているんですが、前回きた時には墓地の中を探せど探せど「清(きよ)」の墓は見つからず、断念してしまったのだ。

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見つからないものを探すのは面倒だ、と思ったが、足の向くままに墓地に入る。なぜだか今回はあっさりと「清(きよ)」の墓が見つかる。「米山」姓なのだが、昔の書き方で左右逆に「山米」と書いてあるので、見つかりにくかったのだ。

一旦本郷通りに出て、脇道にそれると何やら年季の入った大きな塔のような建物(江戸時代に建てられた「経蔵」という建物です)のある脇っちょから「吉祥寺」の境内に入る。

雑誌「coyote」第6(2006年1月)号掲載の記事によれば、この辺りに吉本隆明の家があったはずだが、その中でホンマタカシ氏が撮影した大仏の写真をみつけ、「こんなところに大仏があったのか」と思って自分の目で見たくなった、というのが本日のとりあえずの目的。

 本堂にお参りし、山門に向かって歩いていくと、右手に大仏、というか、大きめの釈迦如来像である。ホンマタカシ氏の写真は冬で周りの樹木の葉が落ちていてすっきりと見えていたのだが、あれから15年が経過して大きくなった周りの木が盛夏でびっしりと葉を繁らせているので、だいぶ雰囲気が違う。ホンマタカシ氏と同じく横顔を撮りたかったのだけど、木が邪魔で真横からは撮影できないので、やむを得ず、右斜めから激写。ひとまず本日の目的は達したと、ふと振り返ると、三毛猫が地べたに張り付いていた。死んでるのかと思ったが、暑さでまいっているだけのようだ。本日は一本1700円のKodakの高級ポジフィルムを装填しているのですが、惜しげもなく10カットほど激写。

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上掲「coyote」のインタビューの中で「願いごとを一つあげるとすれば、何ですか」と訊かれて、足が不自由になっていた吉本氏が「毎日130メートルほど歩くようにしているが、なんとか400メートル歩けるようになって、富士神社にいって縁日の焼きそばを食べたい」と答えている。確かに縁日の焼きそばは、時々無性に食べたくなることがあります。そこで私も「富士神社」に向かう。富士神社は前回、巣鴨から歩いてきたときに偶然見つけていて知っていたのだ。途中、また猫を見つけた。今度は白と黒のブチの猫だ。そこへ本郷通りのほうからお母さんと一緒に5歳くらいの男の子が現れて、真っ直ぐ僕の方にやってきて「どこにいくの?」と問うので、僕は「決めてない」と答えた。

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富士神社から本郷通りに抜けるとすぐに「六義園」である。中には入らず、煉瓦塀に沿って早足に中山道に抜け、さらに千石の住宅地に入っていく。ほとんど店が残っていない商店街の名残のような通りがある。さらに西に向かって歩いて、下り坂を降りきったところあたりに昔は「谷端川」という川が流れていたようである。今は暗渠になっていて、影も形も窺うことはできない。そこからさらに丘を登っていって、雑司ヶ谷に抜けようと思っていたのだが、もう3時。足も痛くなってきたので、この辺りで切り上げることにする。大塚駅まで歩いて、早稲田の方からやってきた都電を撮ったところで、2本目のエクタクロームを撮り切った。

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 ライカM5はM型の中でも不人気な機種、ということになっていますが、ここのところこの機種もご多聞に洩れず価格高騰が進んでいるようです。これはいつ頃だったか、何かのはずみでM5愛が燃え上がり、当時日本橋にあった不二越カメラにて入手。しかし使ってみると、なんとなくもっさりした感じの操作感と、シャッターを切った時の音がちょっとキーンと金属音がするような気がしまして、「これは持病のシャッターブレーキが割れているせいではないか」と妄想した私は、川崎のカメラ修理業者さんに持ち込んで診てもらったところ「全て仕様です」ということでしたが「パララックス補正の動きが渋いのと、露出計がズレてますね。直しますか?」と言われ、この際、ということでオーバーホールしてもらったのでした。

ということで、手持ちのM型の中ではおそらく最も「完調」に近いはずなのがこのM5です。オーバーホールにM5一台分の費用がかかりましたが。。

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Leica M5 + Summicron 50mm + Kodak Tri-X @ Dublin

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Leica M5 + Summicron 50mm + Provia 100

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Leica M5 + Summicron 50mm + Provia 100 @ Dublin

とはいえ、他のM型と比べると、操作感にちょっと違和感があるというのが正直なところで、特にシャッターをかなり深く押し込まないとシャッターが切れない印象があります。シャッターを押し込んでいくと、先端に露出計の測光部をつけた腕木が格納されるのに従って、ファインダーの下端部に表示される露出計の針がビヨヨーンという感じで左端に戻っていくのが「もっさり感」を増幅させているのかもしれません。ということで、かなり大きめのソフトレリーズボタンをつけています。

あと、やっぱりデカいですね。手に持つにしても、ストラップで首から下げるにしても、存在感ありまくりです。Summicronのような小ぶりのレンズをつけていると少々バランスも悪いような気もしますし・・・でもこの「存在感」がある意味よいのかもしれません。今回久しぶりに東京に持ち込んで使って見ましたが、「撮ったったで」感というのでしょうか。そういう満足感を与えてくれるような気もするわけです。

ということで、少々尻切れトンボになってしまっておりますが、気が向いたらまた別の機会にもう少しM5のことを書いてみようかと思います。