しまりす写真館の現像室から

カラーネガフィルムでユルめに写真を撮っています

ライカ「ういやまぶみ」

「いかならむ ういやまぶみの あさごろも あさきすそのの しるべばかりも」 本居宣長

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Leica M3 Double Stroke + Elmar 5cmF3.5 + Fujicolor 100

「ライカウイルス」という言葉を生み出したのは、田中長徳氏だったのか、赤瀬川源平氏だったのか、佐々木悟郎氏だったのか、定かではないが、確かにライカには他のカメラにはない、何か私たちの「物欲」を狂わせるものがあることは、もはや疑問の余地を挟む余地がないほどに客観的に明白な事実である。

私などはまだまだ「序の口」、ライカを語るなど一万光年も早いわ!とお叱りいただくであろうとは自覚しつつも、世の中に「ライカ病」というこの病に冒されつつある人がいるとするならば、この病の道の先達として、何かアドバイスというか、蘊蓄というか、ここは一つ、ひとくさり、垂れてみたいというのが人情というもの、いや、あの日の私、そう、my first Leicaを買おう、とヤマハのバイクをバイク王に売って得た十数万円を握りしめて東京に向かったあの日の私に向かって、今こそ伝えたいことがある(ここでドン、と机を叩く)!

本居宣長が述べたとおり、私はまだまだ初めて修行の山登りに向かって山の裾野をテクテクと歩いている新米の山伏のようなもの、ここに書き記すことは私の粗末な麻の着物の裾が雑草の葉と擦れてついた青いシミのようなものにすぎないが、果たして貴殿の参考になるものかどうか、はて、いかがものであろうか・・・

 

その1.新品を買え。

 もし、今の私が、あの日の私と入れ替わることができたとしたならば、私は新品のMPを買うであろう。当時、私は50万円を超える新品のフィルムライカを買うなんて「あり得ない」と思っていた。そんな、カメラに50万円も払うなんて、正気の沙汰ではない、と思っていた。しかし、いま、わかる。50万円のカメラなんて、買えるか!と思っている人でも、何回かに分けて15万円から、ともすれば25万円もするカメラを、気がついたら5台、6台と買ってしまうこともあるのだということが。

今、MPって新品だと60万円?消費税が6万円?

しかし、以下のような方程式が成り立つのである。

[新品のMP<中古のM6+M3+M4]

M6を買ってしばらくは「俺もライカ人♪」とご機嫌な日々が続くのだが、そのうち「ライカM6なんて、ライカじゃない。本当の『ライカ』を知るには、やはりM3だ」「M3を知らずしてライカを語るなかれ!」などというまことしやかな記事なりなんなりを雑誌とか、ブログとか、古本とかで、目にすることになるわけでです。そんなことないだろーっと、俺は写真が撮れればいいんだもんねっと、聞こえないふり、見て見ぬふりをしているうちはまだ偽陰性、すでにその実ライカウイルスに冒されていて(これを潜伏期間という)、そして、ある夜ふと目が覚めた時に、すでに考えているわけです。

「やっぱ、M3って、違うのかな。」

さて、ここで、シングルストローク(巻き上げレバー1回の操作でフィルムを巻き上げるタイプ)を買う人と、ダブルストローク(レバーを2回引いて巻き上げるタイプ)を買う人に分かれる。シングルストロークを買う人は、比較的軽症であるが、ダブルストロークを買う人は重症化する恐れが高い。なぜならば、ダブルストローク(1954年〜1958年くらいに製造)の方がシングルストローク(1958年以降製造)よりも古いことに加え、ダブルストロークは機構的にデリケートなので、当然のことながら「当たり外れ」があり、予算をケチった結果不満足な個体を掴んでしまい「こんなはずじゃないはずだ」と別の個体に買い直したり、オーバーホールに出して結局思ったようになおらなかったりして(ダブルストローク機は修理を受け付けないお店もある)「お布施」残高が積み上がることになる可能性が高い。そういう意味では「シルキーな巻き上げの感触はダブルストロークのスプリング式が最高」などという都市伝説的ポエムに幻惑されることなくシングルストロークを選ぶ人の方が、無駄遣いをすることは少ないように思うが、でも結局「ダブルストロークのシルキーな感触って、どうよ?」と考え出して、ある日衝動的にダブルストローク機も買ったりするので、結局は同じことかもしれない。

ちなみに私は、M6もシングルストロークのM3もダブルストロークのM3も買ってしまったクチですが、この中で一番軽くスムーズに巻き上がるのは、間違いなくM6です。しかし、どのM6もそうなのかわわかりません。私のM6は、巷ではあまり評判がよろしくない初期型(いわゆる「WETZLER刻印」というやつ)なのですが、比較的上手に調整されているのだろうと思います。

そう、結局のところ中古のライカは「個体差」があるわけです。今時30万円後半、下手すりゃ40万円台のプライスタグがついた美品クラスを購入されるならば別ですが、現実的な価格の中古品の場合、いくら見た目が良くっても、そいつがどんな素性の女、もとい、カメラなのかは、買って、フィルムを通して、使ってみるまでは、わからない。

そんなふうに思います。

そういうわけで、新品のMPを買うなんて、お金の無駄遣い!と考えている貴兄は、ぜひ冷静になっていただき、考え直していただきたい。長い目で見れば、新品のMP一台で済むならば結局は安い買い物という見方もできるわけです。

ブラックペイントのMP、いいよ〜。

ファインダーは新品だから当然だけどスカッと晴れわたり、二重像もくっきりはっきり、「くもり」なし!「バルサム切れ」なし!「無限遠がちょっとズレてる」とか「フレームの枠になんかポツポツある」ということもなし!「あパララックス補正が途中で引っ掛かる」ということもなし、巻き上げるとレバーが滑って一コマ分巻き上げないとか、巻き上げレバーが止まらずにグルーンって行き過ぎちゃうとか上下にガタガタするとか、コマとコマが重なるとか、露出計が2段ぐらいずれてるとか、シャッター幕にカビ跡があったり、微妙に光線漏れしたりとか、バックドアがなんかパコパコするとか、フィルムレールに錆が、とかそういうことは、新品だから当然だけど、一切ないんですよ(ないはず)?もちろん傷も凹みもスレも、ありません!新品は間違いなくどれもが「ミントコンディション」の「美品」です。当たり前だけど、うそ偽りのない「新同品」です。しかもブラックペイントで、使えば使うほど正真正銘のエイジングができていくという(まあ、自分の肉体も一緒にエイジングするわけですが)、もう最高じゃないっスか。

ああ、あの日の私に戻ることができたなら、私は迷うことなくブラックペイントのMPを買っていたことでしょう。

MPって、今、予約生産みたいですね。でもライカの予約はワクチン接種の予約みたいに複雑な手続きは必要ないから、チョー楽勝じゃないっスか。三つぐらいの素性の知れないウェブサイトにアクセスして個人情報を打ち込まないとならないとか、システムがダウンするとか、電話回線がパンクするなんていうようなこともないですし。しかも新品なら、銀座のライカストアでVIP待遇してくれますよ?中古カメラ屋さんの海戦山戦のおじさんや無愛想なお兄さんとのお互いに相手を値踏みするようなかけひきで気疲れしたり、帰りの電車で「俺ってぼったくられた?」とガラスのハートが微妙に傷ついたりすることもなくて、コーヒー飲ましてくれて、帰りに名刺くれて、しばらく立ったら電話がかかってきて「〇〇さま、先日のMPの調子はいかがですか?」ってご機嫌伺いしてくれますよ?

え、MPは巻き戻しが斜めについたクランクでなくノブをぐるぐる回すタイプだから、扱いにくい?

多分それって、あのノブをぐるぐる回すにしてもフィルム一本巻き取るのにかかる時間はクランクでクリクリ巻き戻すのと比べて、10秒とは言わないまでもせいぜい30秒位の違いしかないと思いますし、MP買わなければ、最初はM6とかM4にしたとしても、結局しばらくたったらM3とかM2を手にしてることになるわけで、その時にはノブでグリグリフィルム巻き戻しながら「んー、この巻き戻しの時間にまた新たなイマジネーションが生まれることもあるのよね」とか嘯くようになってるわけですから、心配は無用、結局は同じことなのである。

え、M-Aにしたい?それも「あり」。カメラに露出計ついてなくても、セコニックのツインメイトを買えば、困ることはない。昔の人は70年代になってM5が出てくるまで露出計のないカメラでたくさんいい写真を残してるし、機械で露出測るよりもヤマカンで絞りとシャッター速度決める方が、個性のある写真が撮れるような気もする。でも、個人的にはM-Aの黒ってちょっとシンプルすぎて寂しい感じがするので、M-Aにするならシルバーの方がいいな。

ところでMPってみんな大好きマップカメラの買取サイトで検索してみたら、30万円ちょいで買取してくれるのね。と、いうことは貴方は税込66万円払うのではなくて、66-32=34万円しか払っていない、かつ、そのうち消費税6万円分についてはですね、この国の明るい未来のために、しっかりと、活用してまいりたい、このように考えるわけでありまして、つまり何らかの形で国民に還元されるというわけなのでありますから、エーその、つまりですね、新品のMPの国民における「自己負担額」はまさに、実は、28万円なのであリマス。

これって、どこかの国の社会保険制度よりもよっぽどリーズナブルであり、かつ透明性が高い取引ではないか、と思うわけです。自分が負担する金額と、将来戻ってくる金額が、明確である。

(ここから低く、小さな声で)しかもですよ、ほんっとここだけの話ですが、MPって今予約製造っていうことは、そのうち近い将来、米国金利が上がって一本調子で上がってきたダウ平均株価が下がり始める頃にはディスコンの可能性もあると思われるわけです。もしMPがディスコンになったら、その時はあなたが手にしているそのMPの値段、跳ね上がるかも知れませんよ・・・下手したら、購入費用の66万円そっくりそのまま、いや、プラスの利回りで戻ってくるかも。

決まりです!米国株もビットコインも既に高騰、過熱気味の今、「買い」はライカです!MPです!この際なんなら黒と銀まとめてセットで買っときましょう!投資って2倍投資すれば、リターンも単純に2倍です。どこかの国の社会保険精度なんかよりもよっぽど明朗会計なんです。

・・・ヤッベえ、こんなこと書いてるうちに自分が買いたくなってきたMP・・・。

その2.デジタルMを買え。

ほんと実もフタもなくてすみません。でもフィルムのライカを買おうとしている人は、いまいちど「なんでフィルム?」と問い直しても良いのかも知れない。もちろん、トライエックスやアクロスで撮影して現像もプリントも暗室にこもって自分でやって、作品はどこかのギャラリー借りて展示して・・ということでしたらすみません、ここ読み飛ばしてください。でも、貴殿のワークフローがもしもお店で現像、お店でスキャン、インスタやFlickrで公開して・・・ってことだったら、それってフィルム、しかもライカを使う意味ってあるのでしょうか?

人の趣味に水差すようなこと書いて、ご気分を害された方がおられましたら、ごめんなさい。でもこれ、私、実は近所の写真屋のおじさんに言われたことで、実際答えに窮してしまい、「そのようなご批判は当たらない」と返すしかなかったわけであります。

お店でスキャンって結局露出とか「見栄え」が良いように機械が自動で補正しちゃうんですよね。一度お店の人に「補正なしでスキャンってできないんすか」と聞いたことがあるけど「やり方わかんない」って言われちゃいました。それが嫌でスキャナーを買って自分でスキャンし始めたんですけど、今度はホコリとの無限バトル。ブロワーでふいて、スキャナーのガラスの上を綺麗なクロスで拭いて、ライトルームやフォトショの消しゴムツールで写り込んだホコリの影をシコシコ消して・・・で結局はJpegファイルに置き換えてるんだったら、最初っからデジタルで撮ったらチョー早くね?って、ある日気が付いてしまったわけです。フィルム代も現像代もかからないし、スキャン代あるいはスキャンしてゴミ取って画像整えてっていう手間も全てスキップできるんですよね・・しかも得られる画像は、もうこれ以上は望めないってくらいの高解像度のキレッキレの画像ファイルな訳です。

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Leica M Type 240 + Summilux 50mmASPH.

確かにフィルムで撮ってスキャンして得られる画像って、それでも独特の雰囲気があるわけですが、実はデジタルのM型ライカも、フィルムで撮るのとなんだか似たような味わいがあるような気がしています。これっていったいなんなんでしょうね。フジのXシリーズもいい味出してると思うんですが、ちょっと薄味な気がします。アジの焼き魚定食とトンカツ定食ぐらいの違いがあるような感じというのでしょうか。フルフレームのセンサーがついてるからかな。でもNikon D750を使ってみたこともあるけど、それとも違うような気がするんですよね。。

とにかく、デジタルのM型につきましても、しっかりと、検討してみる価値は、これはあると私は思うわけでアリマス。

え、デジタルカメラは寿命が短い?

確かに。でもひとまずのところ15年選手のうちのオリンパスE-1だっていまだに特に問題なく動いていますし、昨年末入手したライカMも5年落ち?ですけど、少なくともあと5年は持つのではないでしょうか。デジタルライカは壊れると修理代が高くつく、という話は聞いたことがあるので、そこのところはまだ未知数ですが。。でも一時期フィルムに狂ってた時に1年間で使ったフィルム代・現像代を計算したら、15万円くらい使っていたので、仮にこれをさらに暗室で自分で焼いて・・・とかする費用と時間を考えると、フィルム道に邁進するのと、サクッとデジタルに乗り換えちゃうのと、どちらもあまり有意な違いはないのではないかという気がしています。

「ゴタクはもうたくさんだ、とにかく俺は、フィルムで、ライカで、撮りたいんだ!」

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Leica M3 Double Stroke + Elmar 5cm F3.5 + Fujicolor 100

承知いたしました。

そうであるとすれば、やはり定番はこちらではないでしょうか。

(以下、続く)